ソフトバンクグループの財務状況 その13 感想

ここまで自分なりに作業してみて以下の感想を持った。

 

1.財務状況そのもの

最初分析を始めて、借金の額に驚いた。

そして極端なシナリオでは、株式市場動向次第で最悪債務超過になる可能性もあるかも知れないと思ったが、数字を検討の結果、さすがにそんなことはなさそうである。

しかし借入金額そのものの大きさ、またそもそもキャッシュフローが少ないことから、今の市場環境では仮に保有株式売却を行っていくにしても、しばらくの間楽ではないだろう。

 

2.アリババさまさま

とにかくソフトバンクグループは”アリババさまさま”である。

アリババの価値で借金が続いているようなものだ。

そしてアリババ株は今後も価格変動はあろうが、その事業は当分の間成長を続けよう。

多くの中国人の生活はアリババ(その一連のグループ会社群)なしには成り立たないであろうし、中国銘柄で時価総額が第一位なのもよくわかる。

アリババへの投資は孫社長の慧眼が光った最大の功績であろう。

 

3.ビジョンファンド

それに引き換え、詳細は不明だがビジョンファンドの投資先はよくわからない。

IT関連とかハイテク以外のものも多い。ホテルとかオフィスのサブリースとかテクノロジーに関係ないし、全体として的が絞れていない。

とにかくおもしろそうなものに手あたり次第金を出してしまった感じがする。

 

4.4.5兆円の株式売却

この決断を下さざるを得なかった孫社長の内心には忸怩たるものがあろう。

売却を進めると”金のなる木”に対する持ち分は減る。

残るビジョンファンド、Arm、Tモバイルの頑張りに期待するしかないだろう。

最悪のシナリオは縮小均衡的な”じり貧”スタイル。

 

5.マクロ感

うがった見方かもしれないが、中国(アリババ)の発展により生じた含み益をばねに、ソフトバンクグループがvehicleとなって日本(と若干の欧米の)銀行や社債権者から集めためたカネを、諸外国(発展途上国も多い)の起業家に流し、彼らは儲けたり、一息付いたりし、また銀行・社債権者もそれなりのリターンは享受。一方のソフトバンクグループの株主はこのままではギャンブルのおこぼれにはあずかれないままで終わりそう、という図式なのかもしれない。  

今まで多くの危機的な局面を突破してきた孫社長の今後の手腕が見ものである。

 

以上

 

1.とりあえずソフトバンクグループに関する検討・分析はここで一区切りつけ、今後進展があれば個別にコメントしたい。

 

2.久しぶりにこのような投資、金融関連のテーマに自分なりの分析をしてみたのだが、今後はこの作業期間中気づいた別のテーマに関しも徐々に書いていきたい。

 

3.私自身どうしても事業会社の財務部長的な狭い、保守的な発想にとらわれがちである。万が一このブログを読まれる方がおられ、私の書いた内容に明らかな間違いを発見されたり、コメントがあれば、是非教えていただきたい。アメリカではネット上にInvestment Clubが結構あり、個別企業に関し公表データを基に”ああでもない、こうでもない”と結構活発に議論しているのを見かける。

 

 

 

ソフトバンクグループの財務状況 その12 総括

本件今まで検討の流れのままに書いてきて、話がまとまっていないので、一応総括をしてみる。

 

1.ソフトバンクグループとは

a. 現状は保有資産の核はアリババの株式 

 ソフトバンクグループ試算で約50%、当方試算で約57%

 他にソフトバンク㈱、Tモバイルもあるが、”一本足打法”とまでは言わないものの、アリババにおんぶにだっこ

b. 調達した資金を買収・投資に充てており、事業キャッシュフローは限定

 近時のビジョンファンドへの投資は借入によるエクイティー投資

 子会社的な事業キャッシュフローを生んでいるのはソフトバンク㈱のみ

 Armは不発、Tモバイルはこれから(しかも持ち分適用会社)

 

2.ソフトバンクグループの見方

a.  ソフトバンクを見る際、通常の企業分析の見方は意味がない

 会計上アリババは持分法で反映(利益は持ち分に応じ計上)するが、配当はゼロであり、この利益はそのままではキャッシュフローとして入ってこない

 また会計上ビジョンファンドの投資先評価に関しては公正価値のアップを利益計上しており、これもそのままキャッシュでは入ってこない

 連結の会計上の売上・利益はあまり意味がない

b. その意味でソフトバンクグループが試算する”株主価値”は投資会社的性格を反映した一つのアプローチ

 

3.”株主価値”はそのままではミスリーディング

a. しかしながらソフトバンクの試算する”株主価値”のロジックはソフトバンクに有利に見えるような単純な清算価値がベースになっており、いくつかの点で問題で、ソフトバンクの財務の実態を反映しているものとは言い難い。

例:担保に入った子会社株

  ビジョンファンド投資の不調

  on-goingな保有株式の処分(あるいは取得)

b. 株主価値を固めに試算してみると、1,855円/株でソフトバンクグループ試算の18%にすぎず、LTVも61%(cf. ソフトバンクグループ試算 18%)

 

4.近時のソフトバンクグループをとりまく環境および同社の対応

a. 市場動揺に伴う影響

株式市況悪化による銀行の対応変化あるいは格付会社の対応(Moodys格下げ)はある意味で当然

b. 4.5兆円の保有株式売却

4.5兆円の保有株式売却はやむを得ない対応であるが、その実行(タイミング、金額、方法)に関しては微妙なハンドリングを要求されよう

 

5. そして、今後は

a. 資産構成の変化

アリババ株なりソフトバンク㈱株はいわば”虎の子”であり、一部売却後のソフトバンクグループの資産の相対的な劣化は避けられない

b. 投資の真価

逆に言えばビジョンファンド投資が今後本当に大化けするのか?、Armは本当に飛べるのか?等々、アリババ、ソフトバンク㈱以外の投資の真価が問われよう

c. 銀行等債権者との関係

足元大型な起債ができる環境ではなく、また銀行から新規に無担保融資を受けることも容易ではないと思われ、慎重な対応を迫られよう

 

以上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソフトバンクグループの財務状況 その11 株主価値・LTV試算

FF) 株主価値およびLTV試算

 

1.今まで展開した検討を反映し、株主価値およびLTVを試算してみる。

 

結果:株主価値  1,855円/株 

   LTV      61%

 

2.試算の概要

基本的なロジックは先に述べたように、on-goingベースの清算価値(純資産価値)を計算するという構造

単純な清算価値の考え方は排除

保有株式の関しては実態を反映した処分価格に近づける

純債務に関しても同様

 

計算したエクセルのシートが上手く貼り付けられないため概要は以下

 

保有株式評価          SBG前提     当方試算

アリババ           13兆4,661億円    7兆452億円  

ソフトバンク           4兆1,239億円    2兆221億円 

Tモバイル            2兆6,719億円      1兆8,703億円     

ARM             2兆6,405億円     8,802億円

ビジョンファンド       3兆795億円         6,159億円   

その他            1兆976億円       0

計                        12兆4,327億円

 

注:アリババ、ソフトバンクは担保提供分は控除

  上場株式(アリババ3銘柄)は直近市場価格の70%

       ARMは取得簿価?の1/3

       ビジョンファンドは公正価値の1/5

       その他はゼロ  

 

純債務 スタート   SBG前提の純債務      6兆308億円

    修正事項 

      追加   必要現金         1兆4,000億円

           財務費用等経費      1兆1,439億円

      控除   ソフトバンクマージンローン   5,000億円

    暫定小計                8兆747億円

                     ハイブリッド債務調整      5,183億円    

               株主価値計算用純債務          8兆5,929億円

    LTV計算用純債務              7兆5,564億円 

 

注:必要現金:SBG単体保有現預金(2019/3末)数字を参考

  財務費用等経費:SBG単体営業費用及び営業外費用の実績値(FY2017とFY2018の平均)3年分。保有株式売却により借入金が減ってくるため金融費用は減ってくるはずであるが、一方で実質清算にどの程度の期間がかかるか不明なので、とりあえず3年と置いてみた。 

以上

 

 

    

ソフトバンクグループの財務状況 その10

③ ハイブリッド債およびハイブリッドローンは残高の50%を有利子負債としてカウントしている

具体的には

2016/9発行 円建ハイブリッド債 4,710億円 

2017/7発行 ドル建てハイブリッド債 45億ドル

2017/11発行 円建ハイブリッドローン 840億円

← 劣後あるいは永久劣後の性格を持つ有利子負債であるため、バランスシート上で有利子負債なのか?資本なのか?という議論はあろう。

ただし劣後あるいは永久劣後といっても、清算の際は株式保有者よりは優先される。一般の無担保債権者に劣後するだけの話である。

従って株主価値の計算という観点では、理屈上も、また実際の企業価値の分配の際も有利子負債の計算には100%カウントしないとおかしい。

ただしLTVという有利子負債のカバー率(有利子負債に比べ資産がどれだけあるか?)の計算の場合は、一般の無担保債権者(無担保社債権者)の観点に立った場合はあきらかに劣後するので、有利子負債の計算には含めなくてもよいというのがオーソドックスな考え方であろう。

 

ソフトバンクグループの株主価値あるいはLTVの計算はこのあたりの理屈というか論理の運び方がファジーとなっている。

 

④ アリババ株マージンローンの取り扱い

LTV計算の際、”純負債”については有利子負債からアリババ株マージンローンの残高を控除する一方、”保有株式”について同残高相当分減額している。

← 保有株式そのものを担保に取られている状況に対応した調整であるが、先に説明した通り、実際担保に提供した保有株式が処分される場合は、担保に提供した保有株式全部が処分されて弁済に充てられる可能性も高い。

従ってマージンローンの残高を有利子負債から控除するならば、保有株式からは担保提供した株式全額を控除すべきであろう。

 

← アリババ株マージンローンと同じ仕組みのソフトバンク㈱株マージンローンに関する控除が反映されていない。

現状株式価値あるいはLTV計算に使用する多くの数値は2019/12末のため、2020年に入ってからのソフトバンク㈱株マージンローンが反映されていないのはやむを得ない面もあるが、試算する必要がある。

 

いずれにして元々 保有株式の額 >>>> 有利子負債の額 の環境において

LTV = 有利子負債 ÷ 保有株式

を計算する際に

分母、分子から同額を控除する調整は、LTVを実態以上に小さく見せかねない。

 

以上  

ソフトバンクグループの財務状況 その9

4. ”純負債”算出の妥当性

a. ”株主価値”計算式のなかで、純負債はソフトバンクグループの連結ベースの有利子負債に以下の各種の控除(ただし1項目は加算)する形で算出しているが、ソフトバンクグループの実態を考えた場合、変更すべきではないかと思われるポイントもある。

 

① 独立採算の子会社の有利子負債 (ソフトバンク㈱、スプリント、ビジョンファンド、Arm他)

← 資産としてそれぞれ子会社の株式評価額をあてにするわけで、子会社が自力で抱えている有利子負債を控除するのは理屈としては正しい。ソフトバンク㈱とスプリントに関しては当然だろう。

一方その他の投資先はどうか?投資先への財務支援は行わないとも言っているが、最近のWeWorkに関わる一連のドタバタ(財務支援をコミット)をみると、現実的にはそうもいかないのではとも思われる。

Armは支援が資金調達に必要か否か限界であろうが、とりあえず除外。

 

② 純負債なのでソフトバンクグループの現預金を控除

← 一般的な清算価値計算あるいは純資産計算の理論計算においては普通だが、本ケースでもそのまま当てはめて良いのだろうか?

ソフトバンクグループはon-goingな投資会社であり、時間をかけて事業会社株式に投資し、また売却して収益をあげようとしている会社である。

 

つまり事業による収益をベースにしたキャッシュフローによる投資回収を狙った会社ではない。したがって、収益還元的な企業価値の評価あるいは(収益をベースにした)キャッシュフローによる有利子負債返済能力を判定するアプローチはなじみにくい。

もっと具体的に言うと、アリババの持ち分法による収益やビジョンファンド等の投資先の公正価値上昇による評価益などは、まったくの会計上の利益であり、ソフトバンクグループのPL項目を使った収益還元的企業評価は意味をなさない。

 

ただしソフトバンクグループが株主価値として提示しているようなある一時点で切ったような純粋あるいは単純な清算価値的な企業評価あるいLTVモデルによる返済能力の判定では、生きている会社として投資・売却をon-goingに進めていく実態、あるいは足元過去に投資した株式の売却(そして借入削減)をある程度の時間をかけてやっていくことに専念する状況を反映するには不十分だと思われる。

例えばソフトバンクグループは2期分の社債返済資金は最低現預金として保有する方針らしいが、日常の手元資金の必要性も踏まえて考えれば、現預金をすべて控除して純負債とするのは実態から乖離していると思われる。

 

概念的には”on-goingベースのbreak-up valueの算出”をすべきではないか?

 

その観点からは(純粋な有利子負債ではないが)金融費用および一般のSGA(管理費用)も債務的に(あるいは資産の控除項目として)認識すべきであろう。

 

以上

 

 

 

 

ソフトバンクグループの財務状況  その8

d. 4.5兆円保有株式売却と株式(アリババ、ソフトバンク㈱)担保借入の関係

4.5兆円の株式売却に関しては、どうも今後1年くらいかけてということらしいが、具体的な銘柄は明かされていない。

しかしながら金額および株式の市場性(売却可能性)の観点から常識的に考えて、第一候補 アリババ株、第二候補 ソフトバンク㈱、第三候補、スプリントであろう。

とくにCovid-19の問題が出た以降のマーケットにおいて当面ビジョンファンド関連の保有株式の売却は難しいと思われる。

その場合、アリババ株あるいはソフトバンク㈱株に関しては、

①まずソフトバンクグループが担保に提供した株式の売却を(貸手の同意のもとに)行うのか? そして担保借入を返済する。

②担保に提供しておらず手元にある株式のほうを売却するのか?

どちらなのかよくわからない。

アタマで考えると

①を選択すると、次に新資金調達を行うとき、再度残った株式を担保に入れることを要求されるのではないか?と懸念される。

②を選択すると、アリババなりソフトバンク㈱の株価が影響(下落)を受け、掛け目のトリガーを引いてしまう(担保借入の分の売却も始まってしまう!)というリスクも否定できない。

いずれにしても株価動向を見ながらある意味で綱渡り的なmaneuveringを要求されよう。

 

e. ソフトバンクグループの大型株式売却の経験・実績

ただしソフトバンクグループの近時の財務活動をレビューすると、以下のように相当額の保有株式売却をこなした実績があることは特記すべきであろう。

FY2016 スーパーセル株売却 7,698億円

FY2016 アリババ株売却 1兆750億円 (100億ドル)(先渡分を含めて)

FY2018 ソフトバンク㈱上場 2兆3,498億円 

 

足元マーケットが悪い中でのお手並み拝見ということになるのだろうか?

 

f. 売却の際のキャピタルゲインに関わる税金

”株主価値”計算式の注には、”別段記載のない限り税金考慮前”との注記がある。

保有大型株のうち、ソフトバンク㈱株式はソフトバンクグループ(日本法人)が保有しているため、キャピタルゲインが発生すれば原則その分法人税がかかる。

アリババ株あるいはスプリント株に関しては、海外子会社(アリババに関してはシンガポール法人?)に保有させている可能性も大で、その時は海外子会社所在国の税制(シンガポールの場合、キャピタルゲインの税金はゼロ)によるが、低税率に対しては日本サイドでタックスヘブン税制にひっかかる可能性はありうる。

 

ソフトバンクグループは税務戦略においてアグレッシブであるため、どう見るか難しいが、売却の際に見込む市場価格に対するディスカウントに反映させて考慮すべきであろう。

 

以上

 

 

 

以上

 

 

 

 

 

 

ソフトバンクグループの財務状況 その7

b. 子会社”日の出”のソフトバンク㈱を担保とした借入

ソフトバンクグループはごく最近ソフトバンク㈱株式を担保とした借入を実行した。

概要は以下の通り

実行日:2020年2月

借入人:日の出合同株式会社 ソフトバンクグループ子会社

金額:5,000億円

期間:2年(1年延長オプション)

担保:ソフトバンク㈱株式 953百万株 (ソフトバンクグループ保有分4,787百万株の約19.5%)

その他:ソフトバンクグループにノンリコース

貸手:外銀中心の模様

 

この組成の前後のソフトバンク㈱株価が1,400円―1,500円レンジであったことを考慮すると、本件の”掛け目”も5,000億円 ÷ (1,500円/株 × 953百万株) ≒ 35%

で、スカイウォーク(アリババ株)の時とほぼ同じであろう。

 

新聞観測では邦銀(みずほ)が3,000億円の資金調達をアレンジしようとしたが、まとめきれず、この担保融資に踏み切った模様だ。

 

c. 保有株式担保借入の評価、その影響

① ソフトバンクグループの他の債権者(社債権者、銀行)は無担保と思われる。ソフトバンクグループに何か不測の事態が起こった場合、その債権者的地位は担保権者に劣後するので、担保借入の増加はその地位を相対的に弱体化させている。

とくにソフトバンクグループが万が一苦境に陥った時、上記スカイウォークと日の出の借入はノンリコースなので、親会社としてのソフトバンクグループに返済義務はないが、逆に担保として提供中のアリババ株式、ソフトバンク㈱株式はその処分(タイミング、売却価格等)に関しては担保権者の一存による、ということになる。

もちろん株を処分して見合いの借入の返済をしても余れば、それぞれの子会社のもの、そしてソフトバンクグループに戻るということにはなるが。。。

 

注)FY2018のアニュアルレポートには有利子負債(担保付借入)に関し、以下の注記がある

”(注2) 2019年3月31日において、当社 100%子会社の長期借入金557,152百万円(2018年3月31日は842,313百万円)に対して、当該子会 社が保有するアリババ株式520,400百万円(2018年3月31日は363,384百万円()連結上の帳簿価額)を担保に供しています。当該借入 金には担保となるアリババ株式の時価の大幅な下落等の一定の事由が生じた場合、期限前返済となる条項が付されており、借入金の早期 返済を求められる可能性があります。なお、当該借入金はノンリコース債務のため、ソフトバンクグループ(株)には遡及しません。また、期 限前返済となる条項が発動した際に当該子会社が借入金の返済を行わない場合には、債権者は担保株式の処分が可能となります。”

 

つまり、この担保として提供済の株式はソフトバンクグループの保有資産として当てにできない、ということを意味する。

 

② 邦銀はおそらくソフトバンクグループへの一般の与信は無担保でやっているのだろが、外銀のようにしっかり担保を取るという発想はないのであろうか?

あるいは邦銀が新規融資でまとまらなかった背景もそのあたりにあるのであろうか?

 

以上