ソフトバンクグループの財務状況 その9

4. ”純負債”算出の妥当性

a. ”株主価値”計算式のなかで、純負債はソフトバンクグループの連結ベースの有利子負債に以下の各種の控除(ただし1項目は加算)する形で算出しているが、ソフトバンクグループの実態を考えた場合、変更すべきではないかと思われるポイントもある。

 

① 独立採算の子会社の有利子負債 (ソフトバンク㈱、スプリント、ビジョンファンド、Arm他)

← 資産としてそれぞれ子会社の株式評価額をあてにするわけで、子会社が自力で抱えている有利子負債を控除するのは理屈としては正しい。ソフトバンク㈱とスプリントに関しては当然だろう。

一方その他の投資先はどうか?投資先への財務支援は行わないとも言っているが、最近のWeWorkに関わる一連のドタバタ(財務支援をコミット)をみると、現実的にはそうもいかないのではとも思われる。

Armは支援が資金調達に必要か否か限界であろうが、とりあえず除外。

 

② 純負債なのでソフトバンクグループの現預金を控除

← 一般的な清算価値計算あるいは純資産計算の理論計算においては普通だが、本ケースでもそのまま当てはめて良いのだろうか?

ソフトバンクグループはon-goingな投資会社であり、時間をかけて事業会社株式に投資し、また売却して収益をあげようとしている会社である。

 

つまり事業による収益をベースにしたキャッシュフローによる投資回収を狙った会社ではない。したがって、収益還元的な企業価値の評価あるいは(収益をベースにした)キャッシュフローによる有利子負債返済能力を判定するアプローチはなじみにくい。

もっと具体的に言うと、アリババの持ち分法による収益やビジョンファンド等の投資先の公正価値上昇による評価益などは、まったくの会計上の利益であり、ソフトバンクグループのPL項目を使った収益還元的企業評価は意味をなさない。

 

ただしソフトバンクグループが株主価値として提示しているようなある一時点で切ったような純粋あるいは単純な清算価値的な企業評価あるいLTVモデルによる返済能力の判定では、生きている会社として投資・売却をon-goingに進めていく実態、あるいは足元過去に投資した株式の売却(そして借入削減)をある程度の時間をかけてやっていくことに専念する状況を反映するには不十分だと思われる。

例えばソフトバンクグループは2期分の社債返済資金は最低現預金として保有する方針らしいが、日常の手元資金の必要性も踏まえて考えれば、現預金をすべて控除して純負債とするのは実態から乖離していると思われる。

 

概念的には”on-goingベースのbreak-up valueの算出”をすべきではないか?

 

その観点からは(純粋な有利子負債ではないが)金融費用および一般のSGA(管理費用)も債務的に(あるいは資産の控除項目として)認識すべきであろう。

 

以上