ソフトバンクグループの財務状況 その6
2.”保有株式”評価の妥当性
まず保有株式の評価では、上場株式としてアリババ、ソフトバンク㈱、スプリントに関してはいずれも上場株式なので、市場価格(もちろん日々変動するが)をベースにすれば問題ないはずだが、先にも述べたように社債権者の立場から見た場合、以下の検討が必要であろう。
a. アリババおよびソフトバンク㈱の株式の一部は借入の担保となっているようだが、その影響をどう考えるか?
b. アリババ、ソフトバンク㈱、スプリントともソフトバンクグループが主要株主あるいは親会社的立場にある中で、”株主価値”というソフトバンクグループの清算価値的なアプローチを取る場合、またソフトバンクグループが現実に行わんとしている4.5兆円の資産売却を考えた場合、株式の処分価格(売れる値段)をどう考えるべきか?
自己株式取得と負債削減のための4.5兆円のプログラムを決定 | ソフトバンクグループ株式会社
持ち株比率がマイナーの場合は処分価格≒市場価格と擬制してもよいかもしれないが、本ケースは明らかに異なるであろう。
c. さらにビジョンファンド他が投資した非上場株式の価値として”公正価値”を使っているが、その妥当性はいかほどのものか?という問題もあろう。
3.担保に入っているアリババ株式、ソフトバンク㈱株式
近時ソフトバンクグループは保有している上場株式を利用して大型の資金調達を実施している。個別の借入の話なので中身の詳細は不明のため以下推測も多い。
a. 子会社スカイウォークの借入
ソフトバンクグループは2018/3期に子会社スカイウォークがソフトバンクグループが保有するアリババ株を担保に80億ドル(8,423億円相当)の借入枠を外銀?10行から設定を受け、借入を実行している。
2018年株主総会招集通知
https://group.softbank/system/files/pdf/ir/investors/shareholders/2018/pdf_01.pdf
その後2018/9に14.44億ドル新規に借入、2019/1に43.9億ドル返済し、2019/3末には50.94億ドルの残高。 (2019年株主総会招集通知)
そして2019年12末では1兆310億円の残高に戻っている。(決算短信)
この借入は親会社ソフトバンクグループにノンリコース(ソフトバンクグループに返済義務はない)のマージンローン(株式担保ローン)ということなので、ソフトバンクグループの企業としての信用力に依拠することなく、(アリババ)株式の価値(処分価値)に依拠したファインナス形式になっているものと想像される。
どれくらいのアリババ株式が担保に取られているか、ソフトバンクグループ側からは開示はないようだが、アリババの開示資料にはあった。(さすがSEC!)
2019/12末で170百万株 (ソフトバンクグループ保有分の約25%)
一般の株式担保ローン(借り手に対しリコース)は担保とする株式の市場価格の7割程度まで貸す、というのが普通のようだが、このマージンローンの仕組みはどうなっているのか?想像をたくましくしてみよう。
2018年ー2019年のアリババの株価 140ドルから200ドルの間で推移している事実、さらにノンリコースローンということで貸し手には究極的には株式の処分以外に回収方法がないことから、株価の変動、処分による株価下げに対するリスクの”掛け目”は相当厳しいと想像される。
170百万のアリババ株式に対し、枠設定時で掛け目は4割前後(全くの想像の数値 いずれにしても33%から50%の間であろう)であったと仮定すると、その後の借り増しも説明できる。
いずれにしても、この種の借入枠は、もしアリババの市場価格が一定線を割ったら、以下のどれかになるだろう。
①その時の借入残高を減らす(ソフトバンクグループ側は本来返済義務はないが、スカイウォークから転貸されている資金を一部返済し、スカイウォークの残高を減らす)
②保有している残っているアリババ株式をスカイウオークにさらに渡す(貸す)ことで担保を増やす
③貸し手がアリババ株式の処分(換金)をして貸出の回収を図る
実際はノンリコースという形式を考慮すると②はありえず、①または③が主体であろう。
結局アリババの株式がブロックとして大きいため上記③の回収は相当のリスクを内包し、そのため掛け目も相当厳しくなっているのではないかと想像される。
以上
ソフトバンクグループの財務状況 その5
EE) ”株主価値情報”アプローチの妥当性
1.実数ベースへの翻訳
先に上げた計算式を会社のバランスシート上の数字と対比させるため、”一株当たり”から”実態数字”に変換する(発行株式数2,071百万株を乗ずる)と以下の通り。
(2020年3月31日の数字)
株主価値(22兆1,824億円)=保有株式(28兆2,132億円)-純負債(6兆307億円)
ちなみに保有株式の内訳は以下の通り
アリババ 6,716円/株 13兆9,088億円
ソフトバンク㈱ 2,081円/株 4兆3,097億円
スプリント 1,515円/株 3兆1,375億円
Arm 1,282円/株 2兆6,550億円
ビジョンファンド 1,494円/株 3兆940億円
その他 534円/株 1兆1,059億円
(注:アリババ以下の3銘柄は上場株式のため、その価値は”日時更新”)
アリババ株式の資産価値の大きさには改めて驚く。
もし”株主価値”の概念がそれなりに”正しい”ものなら、ソフトバンクグループの市場価格と”株主価値”の乖離は大きすぎるというべきだろう。
一方まったくコンセプトが異なるので当たり前なのだが、”保有株式”の額あるいは”純負債”の額と2019年12月末におけるソフトバンクグループの連結ベースの総資産額、39兆4,064億円あるいは有利子負債額、19兆2,500億円との間にはそれぞれ相当の乖離が存在する。”株主価値”の背後にある考え方あるいはその妥当性を検討する必要がどうしてもありそうだ。
以上
ソフトバンクグループの財務状況 その4
DD) ソフトバンクグループ(親会社)の財務状況の見方
1.鍵はソフトバンクグループ(親会社)
今まで見てきたことからわかるように、ソフトバンクグループの財務の鍵は、事業子会社ではなく、親会社としてのソフトバンクグループにあるように見受けられる。
2.株主価値情報
ソフトバンクグループのホームページIR情報に”株主価値情報”というコーナーがあり、一株当たりの株主価値が数字が試算されている。
本日マーケットがしまった段階の例では
株主価値(¥10,661)= 保有株式(¥13,573)- 純負債(¥2,912)
との計算式があげられている。
そして本日の終値として¥3,692、純負債/保有株式(LTV)18%と付け加えられている。(注:LTVはLoan to Valueの略)
そして上記計算式の計算の説明が細かく注記され、最後に
”当社グループの想定であり、当社の普通株式を含むいかなる有価証券の価値や投資判断を示唆するものではありません。”とある。
会社としてのメッセージは以下であろう。
1.市場の株価は低すぎるのではないか? ¥3,692 < ¥10,661
2.借金は資産(保有株式)の18%に過ぎず、財務は健全だ
要は親会社としてのソフトバンクグループを完全に投資会社・ファンドとして捉え、バランスシートの左側の保有資産(株式)の価値と、右側の負債(借金)の額を比べ、左側が十分大きければ財務的に大丈夫、また株主の価値も大きい(株価は高いはず)という考え方である。
他にも見なければいけない点はあるのだが、今のソフトバンクグループの財務状況を検討する場合、結局このアプローチの妥当性に鍵があると思われる。
以上
ソフトバンクグループの財務状況 その3
2.米国のSPRINTはどういう状況か?
上場しているので直近の状況がわかる。
(金額単位:百万ドル)
B/S 2019/12 Cashflow FY2019
総資産 86,902 利益 ▲514
自己資本 25,755 償却 7,050
有利子負債 37,387 営業cahsflow 6,765
オペリース 5,423 投資cashflow ▲8,031
財務cashflow ▲2,530
現金収支 ▲3,796
資金調達の中身の詳細は省略するが、社債、借入(中には”周波数帯担保借入?”なんていうものもある)、売掛金流動化等多彩。
今後米国通信市場における位置づけ、収益の見通し等に関しては十分な情報は持たないので、はっきりしたことは言えないが、ソフトバンク㈱との対比でいえば、
グルプへの収益貢献: 未だ
資金調達: 自力で実施中
というところであろう。
3.通信子会社2社の財務上の位置づけ
従ってソフトバンクグループ全体の財務状況を考える場合、この2社は親会社の資金調達に直接負担がかからず、独立している。ソフトバンク㈱は収益面でも大きく貢献。配当も大きい、といえよう。
あえて懸念すべき点を言えば、ソフトバンク㈱、Sprint共、詳細は不明だが、相当額の銀行からの借入があるが、おそらく各銀行のソフトバンクグループへのグループ与信に加算されている点であろう。
以上
ソフトバンクグループの財務状況 その2
CC) 事業子会社の財務状況
ソフトバンクグループに関しては、”国内通信大手の一角たるソフトバンク㈱を傘下に持っているから、大丈夫”という見方もあるかもしれない。
確かに社会インフラとしての通信事業は安定性があり、今後それなりの成長も望めよう。
ソフトバンク㈱は2018年12月にソフトバンクグループが保有していた持ち分のうち33.5%を売り出す形で上場し、ソフトバンクグループは2兆3,498億円(税考慮前)の資金を調達している。(ソフトバンクグループは約2兆円が使える、としている)
具体的にソフトバンク㈱の直近の状況を見てみよう。
昨年2019年6月にZホールディング(ヤフー他)を連結子会社化し、通信以外の事業部分も大きくなり、やや見えにくくなっているが、大方以下の通り。
2019年12月末 B/S
総資産 9兆9,658億円
自己資本 1兆6,843億円
有利子負債 5兆,3520億円
なお有利子負債の中身は以下が中心
借入(銀行?) 3兆7,684億円
リース 1兆1,157億円
2019年12月までの9ヵ月 キャッシュフロー
利益 4,691億円
償却 4,971億円
営業キャッシュフロー 7,931億円
投資キャッシュフロー ▲7,294億円
財務キャッシュフロー 1,778億円
現金収支 2,412億円
今後も5G関連投資も続くであろうから、いわゆる財務活動前のネットキャッシュフローが大きく伸びて金がジャブジャブということには当面ならないと思われる。
一方でソフトバンク㈱のFY2019の配当予想を85円/株。配当総額は約4,000億円であり、ソフトバンクグループは約2,700億円の配当金を受け取ることになる。
ただしソフトバンク㈱の上場前は例えばFY2017にはソフトバンクグループに対し1兆円以上の配当を行ったこともあることとの対比では、当たり前であるが、上場を通し生じた少数株主の存在もあり、理屈の上でも、実際的にも親会社ソフトバンクグループとしては100%子会社のような扱いはできなくなっているといえよう。
従ってソフトバンクグループにとってソフトバンク㈱の位置づけは
a. 連結利益の面 (3分の2の計上になるが)貢献大
b. キャッシュフロー 資金調達は独力。ソフトバンクグループの負担なし
相当額の配当金受領継続が期待可能
というところであろう。
従って冒頭の”ソフトバンク㈱はソフトバンクグループの支えとなるか?”という視点に対しては、グループの財務にとって相当大きなプラス材料ではあるが、19兆2,500億円う有利子負債を、ソフトバンク㈱だけで支えきれるものではない、という見方が妥当であろう。
以上
ソフトバンググループの財務状況 その1
AA) 最近ソフトバンクグループに関する動きが慌ただしい。
1.ソフトバンクG、4.5兆円の資産売却 2兆円の自社株買い実施 :日本経済新聞
3.ソフトバンクG出資 英衛星通信企業が経営破綻 :日本経済新聞
ソフトバンクグループに関しては、近年孫社長のリーダーシップのもとで投資会社的色彩を強めて来た、という認識がある。ただしサウジとのファンド(Vision Fund)なども絡んでいるので、レバレッジ(借金)はそれほど高くないのではと何となくイメージしていたが、数字を見てみるとその有利子負債は絶対額として相当のレベルにあることに遅まきながら気づいた。
後で見るようにソフトバンクグループは相当額の個人向け?社債を出しており、単純にその償還は大丈夫なのか?という投資家的観点からソフトバンクグループの財務状況を分析し、私自身の企業財務の勉強の一環としていく所存。
ソフトバンクグループの開示はこの種のものとしては、かなり良くできていると思われるため、開示資料ならびに新聞等の報道資料に基づいてできる限り客観的に分析をトライしたいが、それなりに私見も入り込むと思う。お許し願いたい。
BB) まず直近の開示資料(主に2019/3Qの決算短信)に基づいて見てみる。
1.グループ全体(連結)の有利子負債(含リース債務)(2019/12末)
⇒ 19兆2,500億円
(内訳)
ソフトバンクグループ(親会社) 6兆7,061億円
資金調達子会社(2社) 1兆2,276億円
ファンド事業 7,216億円
ソフトバンク(携帯) 4兆1,099億円
Zホールディング 8,200億円
その他ソフトバンク事業 4,211億円
米国スプリント 4兆9,015億円
その他 3,420億円
とにかく私などは19兆円という金額に驚いてしまうが、例えばトヨタも販売金融にとてつもない金額が必要な訳で20兆円の有利子負債がある。
要は有利子負債をserviceできる(返済できる)だけのキャッシュフロー(あるいは見合いの資産)があるか? 借り換えが可能か?(新規資金調達が可能か?)ということがポイントとなろう。
トヨタ、1兆円融資枠要請 三井住友銀・三菱UFJ銀に :日本経済新聞
2.親会社ソフトバンクグループの有利子負債
ソフトバンクグループは親会社で傘下に事業会社を持つが、資金調達主体でもある。
6兆7,061億円の有利子負債の内訳は以下の通り借入(銀行借入であろう)もあるが社債が主体である。
借入金 1兆4,694億円
社債 5兆527億円
その他 1,840億円
社債の中身を見てみる。ホームページのIR欄に社債一覧(2019/12末時点)が出ている。
償還スケジュールでみると来年度の負担は1,498億円と比較的軽いが、その後は単年度に集中しないように分散されているが、毎年5,000億円から8,000億円の償還を抱えていることがわかる。
FY2020 1,498億円
FY2021 8,453億円
FY2022 4,838億円
FY2023 6,209億円
FY2024 5,771億円
FY2025 8,825億円
以下略
社債の種類としては以下の通り。
国内円建社債(福岡ソフトバンクホークボンド) 約2兆5,000億円
米ドル建社債 約6,200億円相当
ユーロ建社債 約6,700億円相当
劣後債 8,453億円(FY2021満期)
米ドルル建永久劣後債 約4,969億円相当
ハイブリッド債 約4,600億円
もうすぐ終わるFY2019も前半にソフトバンクボンドを3本発行し、計1兆円調達している。(上記金額にも含まれている)
シリーズ 発行月 金額 利率 満期
第55回 2019/4 5,000億円 1.64% 6年
第56回 2019/9 4,000億円 1.38% 7年
第57回 2019/9 1,000億円 1.38% 7年
とにかく桁外れの大型資金調達を実行してきたということがよくわかる。
以上取り急ぎ第一回の勉強は終わり
(なお私自身はソフトバンクグループ関連の投資エクスポージャーは有しておりません)